久々に ヤバい人あるいはアブナい人あるいは熱心な環境活動家の方とお会いしたのである。
早朝に、まあ 早朝にと言っても、朝の4時半ごろであるが、十分に 早朝だ、まあとにかく その時間に起きて 1500万坪の広大なお庭で 気功家の朝の日課の八段錦を功して いたら、 うちの門にあるインターホンをピンポーンと押してるやつがいるのである。
こんな早朝に来るやつは 新聞配達のお兄ちゃんか、 そうでなければ完全に常識から逸脱してるやつである。
その予想は当たって、朝っぱらから派手な アロハシャツにサングラスで 半ズボンの、まあ言ってみれば 私のお出かけスタイルと同様であるが、 ううむ、つまりあたしの夏のお出かけ着は はたから見ると、おつむが壊れた人のファッションであるわけである。
誰がいかれたじじいだ。
まあとにかく、 どこからどう見ても壊れてる お兄ちゃんが こちらを向いて 立ってるのである。
面白いと言えば面白いし、 極めて危険といえば 危険であるが、 その先に何が起きるか知りたいのは 已むに已まれぬ作家の習い性で、いたしかたないところである。
誰が作家だ。
「 はい 何でしょうか」
そしたら お兄ちゃんが足早に近寄ってきたのである。
「今 焚き火してましたよね」
いや 焚き火 と言われても、八段錦 が焚き火 かどうかは 何とも言えないところで、あたしの八段錦が 氣でゴーゴーとオーラの炎が立ち昇らせていたのかもしれないのであるが、どう考えても焚火ではないのである。
「 いや 焚き火はいたしておりませんが」
と、当たり前のお答えをしたのである。
そしたら お兄ちゃんが 間髪を入れず言い放ったのである。
「 焚き火の臭いで 臭くて臭くて眠れないんですよ」
サングラスの奥の目が吊り上がって、著しく憤慨しておっしゃるのである。
変に逆らうとどう考えても包丁を持って 再度 ピンポンされそうな勢いである。
「 ああ そうですか、 それでは即刻 焚き火は取りやめます」
ヤバいときは刺激しないのに限るので、ごく低姿勢で申し上げたのである。
そしたら どういうわかけか、逆に お兄ちゃんの興奮度が高まってきたのである。
「 毎日 警察に電話してるんだけど、 警察がパトロールしても見つからないって言うんだよ、 だから 直接来たんだ」
そらそうである、 あたしゃ焚き火なんかしたことがないし、 通報がきたら警察も一応は パトロールしなきゃいけないから、 毎日 されたら 警察もえらい 迷惑である。
だいたいが、今時、この環境問題のやかましい中で、わざわざ 目立つ庭先で焚き火するバカはいないのである。
つまりあたしは バカにバカ扱いされてるわけである。
そうは言っても 派手なアロハにサングラスで 殺気立ってるお兄ちゃんに余計なことを言うと 火に油を注ぐことになるのは自明の理である。
「分かりました、 これからは 焚き火を慎むようにいたします」
と、さらに低姿勢でご返事申し上げたのである。
すると、 お兄ちゃんは どこでどうスイッチが入ったのか、さらに勢いを増したのである。
「警察呼びましょうか、 警察呼びましょうか」
と、わめき始めたのである。
こんなわけのわからんことで警察に通報されて、近くの懇意の駐在さんまで巻き込んだら えらい迷惑であるので、とにかく興奮を収めなければならないのである。
「はいはい 分かりました、 何もかもあなたが正しい、 あなたの言うように今後 焚き火は絶対にいたしませんのでご安心ください、でも、この辺は郊外で農家が多いから あちこちで刈った草や木なんかを 燃やしているでしょう」
と、いつものおっちょこちょいが出て、ついでに余計なことを言ってしまったのである。
その「農家」という言葉で興奮度が極限に達したらく大声を張り上げ始めたのである。
「それについては 役所に確認したら 農業でも 許可なく燃やすのは違法なんですよ! 絶対に燃やしてはいけないんです!見つけたら全部俺が警察に通報してるんですよ!警察呼びましょうか!警察呼びましょうか!」
収拾がつかなくなったのである。
これでは、近所の人に怪しまれて 別の意味で警察に通報されかねないのである。
「 分かりました 分かりました、 あなたが全面的に正しいから、反論する気はまったくありません、 その通りです、農家も燃やしてはいけません、あたしも応援しますから、これからも 頑張って 違法行為は警察に通報してください」
すると、言うことがなくなったのか、 急にくるり と踵を返して出て行ったのである。
それだけである。
弱ったもんである。
世界中で弱ってるだろうねえ、としみじみ思う今日この頃である。
・象気功